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特集 : 最新組み込みLinux実践講座Part1

対象製品: Armadillo-500Armadillo-300Armadillo-9Armadillo-240Armadillo-230Armadillo-220Armadillo-210Armadillo(HT1070)Armadillo-J
Part 2

(株)アットマークテクノ
実吉智裕
SANEYOSHI Tomohiro

この文書は技術評論社「Software Design」2007年11月号に掲載されたものです。

本章では,ARM プロセッサの歴史と背景,組み込み機器とは,Armadillo シリーズ誕生の秘話,ガジェットのプラットフォームとなるArmadillo-500 について解説します.

はじめに

「Armadillo」とは何でしょう? 日本語で書くと「アルマジロ」で,動物の名前なのですが,本特集で紹介するArmadillo は動物ではなく,ARM CPUをベースとした組み込み用の小型ボードコンピュータのシリーズ名称です(写真1).

●写真1 初代Armadillo

動物のアルマジロがスペイン語の「armado」を語源とした「武装した小さな動物」ということのようですが,Armadillo は「ARM CPU の小さな製品」という解釈に変えています.もともとは開発コードネームだったものが,そのまま製品シリーズの名称として使われています.

図1がArmadillo シリーズのキャラクタで,アルマジロの上にペンギンが乗っています.ペンギンはもちろんLinuxを,アルマジロはハードウェアを意味し,Armadillo ハードウェアの上にLinux ソフトウェアが乗っていることを表します.

●図1 Armadillo シリーズのキャラクタ

組み込み機器とARM CPU

組み込み機器とは?

最近「組み込み機器」という言葉が多く聞かれるようになりました.古くからある言葉ではないと思っているのですが,少なくともこれはコンピュータが組み込まれた機器のことを指しています.では,パソコンやサーバとは何が違うのでしょうか? あまり明確な定義がされていないようなのですが,筆者の解釈では,パソコンやサーバのように汎用的で多目的に使われるものではなく,特定の目的を実現するために作られたコンピュータ機器が組み込み機器となります.

世の中のコンピュータ機器の多くは組み込み機器であり,組み込み機器よりもパソコンのほうを多く持つ方は,おそらくほとんどいないのではないかと思います.筆者の目の前にも,固定電話,携帯電話,TV,リモコン,エアコン,HDDレコーダ,インターホンなどなど多くの組み込み機器が存在しています.

一般的に販売されているパソコンのマザーボードとは別に,産業用マザーボード(ボードコンピュータと呼ばれることが多い)というものが売られています.パソコンのマザーボードと何ら変わるものではなく,WindowsやLinuxのインストールもできてしまえば,WordもExcelも動いてしまい,これはパソコンそのものです.

しかし,産業用機械の中に組み込まれて,その産業機械の目的を実現するためのソフトウェアがインストールされると,組み込み機器という扱いになるのです.

ARM とは?

携帯電話の普及とともにARMの説明が容易になってきました.「携帯電話の中にもCPUが入っていて,ARMは市場の多くの携帯電話に採用されています」と言えば説明できてしまうのです.

では「なぜ携帯電話にはIntel のCPU ではなくARMなのか?」という問いにはどのように説明するのが良いでしょうか.「Intel はパソコン向けで,ARMは携帯電話向け」という簡単な説明ではなかなか理解してもらえないかもしれませんが,簡単に言えば2 つのCPU はその目的や育ち方が違うのです.処理能力を最大限に優先してきたのか,消費電力やコスト(シリコンの面積)を最大限に優先してきたかの違いです.

IntelのCPUはおもにPCやサーバ用途で使われ,OSやソフトウェアの進化とともに非常に多くの処理を行うために開発が進められたCPUです.それに対して,ARMは低価格で低消費電力な組み込み機器向け,正確にはSoC(System on a Chip:コラム参照)向けに開発が進められたCPUです.

COLUMN
SoC(System on a Chip)とは

コンピュータシステムの主要機能を1 つのチップに集積したLSI のことを言い,システムLSI と呼ばれることもあります(図A).主要機能とは,CPU の他タイマやシリアルポートなどの周辺回路,メモリなどを指しています.実装に必要な基板面積を縮小することができ,消費電力も同等の機能を持つ複数チップによるシステムと比べて格段に抑えることができます.特定の目的を持って作られることが多く,初代Armadillo で採用されているSoC「EP7312」はPDA向けに特化された設計になっています.

●図A Armadillo(HT1070)で採用されているSoC EP7312

しかしながら,この2 つのCPU の進化の方向性は完全に異なっているわけではなく,Intel は低価格,低消費電力を実現するような方向にも進化しており,ARMは高い処理能力を持てるような方向にも進化しています.将来的にはこの2 つのCPUが同じ市場で競合するようなことも,あるのかもしれません.

なお,ARMとは会社の名称であり,CPUの名称でもあります.本稿では会社名を「ARM 社」,CPUを「ARM CPU」と表現することにします.

携帯電話市場で採用されるARM CPU

最近の携帯電話には多くの機能が盛り込まれています.今ではゲーム,音楽再生,カメラ,オサイフ,ワンセグ放送受信まででき,これだけ多くの機能を実現した携帯電話が,世界で年間10億台以上も作られているのです.

10億台の市場に1,000種類の携帯電話があるとすると,1 機種あたり100 万台もの台数が流れます.もし1台あたりの製造原価を100円下げることができれば,その機種は1億円の利益を出すことができるのです.

ではどうすれば原価を下げることができるでしょう? 各メーカはさまざまなコストダウンを行っていますが,中でも重要な役割を果たしているのが,携帯電話向けの専用SoCを作ることです.

SoC化することで,1つの半導体に多くの機能を集積できます.最近の半導体の設計は規模も大きく初期費用がかさむ傾向にあるのですが,携帯電話のような数量規模の大きい市場ならば十分に回収できます.

半導体そのものの単価は面積に影響されるので,必要な機能をできる限り小さい面積で実現することが重要です.今の携帯電話の機能を実現するためには,高い処理能力と低い消費電力,そして小さい面積の3つが重要で,この3つをバランス良く持っているのがARM CPUなのです.

CPUコアの消費電力を表す単位としてmW/MHz(1MHzあたりの消費電力)というものが使われるのですが,この数値が小さいほど,効率良く動作するCPU ということになります.まさにARMCPU がこの数値に優れており,かつ小さな面積を実現しているということが,携帯電話で多く採用されている理由です.

参考までに90nmプロセスで製造されたPentium4(Prescott)の面積は112 平方mm です.同じく90nm プロセスでARM7 を製造した場合の面積は0.18平方mmとなり,Pentium 4の600分の1以下のコストというになります.その際の最大動作クロックは236MHzで,消費電力は0.03mW/MHzということですから,最大でも7mW程度となります.

ARM CPU の歴史

さて,ARM CPUとはどのように生まれてきたのでしょう?

パソコンのソフト/ハードを開発していた英Acorn 社が自社のために「ARM1(Acorn RISC Machines 1)」という32ビットのRISCプロセッサを開発し,性能向上のためARM2,ARM3と進化させていきました.そのような中で米Apple社が興味を持ち,ARM コアの共同開発に取り組みました.その後Acorn 社からCPU の開発チームをスピンオフして立ち上げた会社が現在のARM社(当時の名称はAdvanced RISC Machine社)です.

Apple 社はARM6(ARM4,5 は存在しない)を「Newton MessagePad」というPDAに採用し,タッチパネル液晶と優れたGUI のモバイル機器をリリースしたのです.

ARM CPUはこの時代にはすでに,コスト(シリコンの面積)を抑え,低消費電力を実現するためのCPUコアとしての道を歩んでいました.ARM社自身は工場を持たないファブレス企業で,ARMコアが単体で販売されることはほとんどありません.

ARM 社はARM CPU の回路をライセンス販売するというビジネスモデルです.少ないシリコン面積ながら低消費電力で高い性能を出すことが大きく評価され,ARM7 の世代で多くの携帯電話のCPU として採用されました.その結果,世界中の多くの半導体メーカが自社のSoC向けのCPUコアとしてライセンスを受け,携帯電話以外でもさまざまなSoCのCPUとして組み込まれるようになりました.その後もARM8,9,10,11と発展し,現在の最新Cortexシリーズに発展しています.

ARM CPU を採用した組み込み機器

ARM7の世代以降,ARM CPUを採用して設計/製造されたSoC は数多いのですが,一般の半導体市場で流通することはほとんどありません.特定の目的を実現するために作られたSoC は,外販されることは多くないのです.

また,特定の目的向けに作られているSoCであるがため,ARM CPUが組み込まれていることすら気付かれずに流通しているものもたくさんあります.たとえば無線LANやBluetoothコントローラLSIは一見すると専用LSI のようにも見えますが,ARMCPU が内蔵されていて,多くのことがソフトウェアで処理されている場合も多いのです.

話は変わりますが,1998 年ころ,一部のマニアの間ではM P 3 が流行り始めました. 当時のDiamond Multimedia 社Rio シリーズ,CreativeMedia 社Nomad シリーズといったプレーヤには,ARM7を搭載した米CirrusLogic社のEP7209が使われていました.クロックは74MHzでキャッシュメモリやMMU(Memory Management Unit)が搭載されています.EP7209 はCPU コアの他にDRAMコントローラやオーディオインターフェース,キーインターフェースなど,数々の周辺回路が搭載されているSoC です(このSoC の後継「EP7312」がArmadilloに採用されることになります).

このEP7209 は携帯オーディオプレーヤよりもPDAを意識して作られたSoCです.EP7209の前身である「CL-PS7111」というSoCは,英Psion社のPDA「Psion series5」(写真2)注1に採用されています.

●写真2 Psion series5(写真はWikipedia より)

Armadilloの開発を始めた2001年当時,今から見れば貧弱なリソースしか持たないこの「Psion series5」にLinuxを移植していた人がいました.しかもDebianまでもがそれなりの速度で動いていたことは,当時の筆者にとって衝撃的だったのです.

筆者が「今後のSoC 時代の組み込み機器で,CPUの主流はARM,OSはLinuxになる」という確信を持った瞬間だったと思いますが,思い出が美化されているだけかもしれません.

表1にARMコアを採用した製品の例を挙げます.

●表1 ARM コアを採用した製品の例
コアの世代代表的な機器とメーカ
ARM6 Apple : MessagePad100(PDA),松下/三洋: 3DO(ゲーム機)
ARM7 任天堂:ゲームボーイアドバンス,ソニー:ポケットステーション,Psion : Psion series 5
ARM9 任天堂:ニンテンドーDS Lite,ウィルコム: 9(nine)
StrongARM/Xscale Apple : Newton MessagePad2000(PDA),HP(Compaq): iPAQ,シャープ: W-ZERO3
ARM11 東芝: Gigabeat,各社: DoCoMo 携帯903i 世代


COLUMN
ARM 以外のCPU は

組み込み機器のCPU には,ARM CPU 以外にも4~ 64 ビットまでさまざまなものが使われています.32ビット以上のCPU 市場に限ると,ARM 社のようにCPU コアのライセンスだけを販売しているような会社は他にもあり,その代表的な会社はMIPS です.CPUコアのライセンスだけではなく,SoC として販売されている代表的なCPU はPowerPC やSuperH です.

それぞれのCPU は組み込み機器の中でも得意な市場があります.PowerPC はIBM 社とMotorola 社から始まっているということもあるせいか,通信機器で多くのシェアを持ちます.

MIPS はRISC プロセッサの代表的なもので,高クロック化しやすくMPEG 再生などをさせるような負荷の高い処理能力を必要とするDVD プレーヤやセットトップボックスなどで採用事例が多いです.

ルネサステクノロジ社が提供する国産CPUのSuperH は,制御器や計測器で採用事例が多く,セガ「Dreamcast」にも搭載されたSH-4 は,その画像処理能力の高さからカーナビ市場で高いシェアを持つようになりました.

Armadillo シリーズの誕生秘話と製品概要

ArmadilloシリーズはARM7から始まり,ARM9,ARM11へと発展しています(表2,3).コンシューマ製品の市場と違い,最初の製品販売から5年以上経過しているのですが,今でも初代Armadilloを生産/販売しています.Armadilloシリーズがどのようなコンセプトで生まれ,組み込み機器開発のプラットフォームとして発展してきたのか説明します.

●表2 Armadillo シリーズの発表時期とCPU
製品名発表時期LSI メーカと型番CPU コアの種類/動作クロック
Armadillo(HT1070) 2001 年11 月CirrusLogic EP7312 ARM720T/74MHz
Armadillo-J 2003 年10 月DigiInternational NS7520 ARM7TDMI/55MHz
Armadillo-9 2004 年7 月CirrusLogic EP9315 ARM920T/200MHz
Armadillo-210 2005 年11 月CirrusLogic EP9307 ARM920T/200MHz
Armadillo-220/230/240 2006 年4 月CirrusLogic EP9307 ARM920T/200MHz
Armadillo-300 2006 年11 月DigiInternational NS9750 ARM926EJ-S/200MHz
Armadillo-500 2007 年5 月Freescale i.MX31L ARM1136JF-S/400MHz



●表3 各ARM 世代のArmadillo 比較
世代ARM11 ARM9 ARM7
代表的な製品Armadillo-500 +ベースボードArmadillo-9Armadillo(HT1070)
CPU コア/クロックARM1136JF-S/400MHz ARM920T/200MHz ARM720T/74MHz
プロセッサFreescale i.MX31L CirrusLogic EP9315 CirrusLogic EP7312
DRAMMobile DDR 64M バイトSDRAM 64M バイトSDRAM 32M バイト
フラッシュメモリNOR 16M バイトNOR 8M バイトNOR 4M バイト
LAN100BASE-TX 100BASE-TX 10BASE-T
VGA 出力 ×
USB ホストHi-Speed(480Mbps) Full-Speed(12Mbps) ×
ストレージNAND/SD IDE ×
コンパクトフラッシュI/O カードメモリカード対応TrueIDE モード


初代Armadillo(HT1070)

筆者の仕事の成り行きで,ARM CPUというものに興味を持ったものの,2000 年の当時ではARMCPUを搭載した汎用SoCはほとんどない状況でした.国内の数社のLSIベンダに販売や開発を依頼しましたが,当時の筆者の会社は小さすぎて相手にしてもらえるはずもありません.

その当時,救世主として現れたのが米Altera 社というFPGA(書き換え可能な半導体)のベンダです.ARM9を搭載したFPGAを販売するという発表があり,これがまさに理想的なLSIでした.当時では最新コアのARM9を採用しており,しかもFPGA部分に自由に回路を拡張することができます.つまりオリジナルSoC を自在に作って販売できることになるわけです.

しかし,残念ながら当時のFPGA はまだまだ価格が高くArmadilloに採用するには至りませんでした.そのような状況の中,快くARM CPU 搭載のSoC を販売していただけたのが,あの「Psion series5」にも採用されていたCirrusLogic社でした.CirrusLogic社のSoC「EP7312」は,過去の同シリーズでLinuxの動いていた実績もあり,素性としては申し分なく,Armadilloの開発をスタートすることができました.

当初のコンセプトはLinuxが動くARM CPUの汎用ボードコンピュータです.汎用ボードコンピュータとして使うためには,ある程度の拡張の自由度を持つ必要があります.そして地元の電子部品 商社「梅沢無線電機」がPC/104というボード規格に準拠した拡張用PC/104 ボードを多数揃えており,この拡張ボードのホストとなるCPUボードとして「Armadillo」が共同開発で進められました.

完成したArmadilloがお披露目されたのは,組み込み機器イベント「MST2001」(今のEmbedded Technology)です.当時ではまだ「ARM+Linux」は異色の組み合わせであり,来場した多くの方から賛否両論のコメント(「賛」よりは「否」が多い)をいただきました.

  • ARMよりもSuperHで作ってほしい
  • 組み込み機器でLinuxを動かして意味があるの?
  • リアルタイムOSでなくて良いの?
  • 多くのメモリやCPU パワーが必要だからコストが高くなる!
  • ARMでLinuxが動くの?!それは楽しいねぇ


Armadillo-J

初代Armadilloがそれなりに話題になって,さまざまな要望が寄せられるようになりました.

  • Linuxを動かすのだからもっとCPUパワーやメモリが欲しい
  • USBを使って簡単に拡張をしたい
  • 100Mbps のLAN を使用したい(74MHz のCPUパワーでは活かしきれないのですが)
  • 画面出力が欲しい

おもにインターフェースの話が多かったのですが,では当時のArmadilloユーザは何のインターフェースを使っていたのでしょうか? 多く利用されていたインターフェースはLANとシリアルポートと汎用入出力(GPIO)でした.

そのような状況の中,2003 年に衝撃的な製品が現れました.米Digi International社の「ConnectME」です.RJ45コネクタ形状の中にARM7 CPU,8MバイトのDRAM,2Mバイトのフラッシュメモリが搭載されています.インターフェースはLANの他,1つのシリアルポートと5本のGPIOのみですが,当時の多くのユーザにはConnectMEで十分なことが多く,ここにLinux(MMUがないのでuClinux)の移植をして,「Armadillo-J」(写真3)が誕生することになります.

●写真3 ConnectME を採用したArmadillo-J

Armadillo-9

ARM CPUの認知度が高くなるにつれ,ARM7よりもARM9に対する要求が増えてきました.Armadilloで採用していたEP7312 の後継であるARM9のEP9315を採用し,初代Armadilloで弱点と言われていたことを大幅に改善した「Armadillo-9」を開発しました.

具体的にはCPU処理能力の強化,メモリ容量の増加,USBホスト/VGA出力/I/Oカード対応のコンパクトフラッシュ/100Mbps対応LAN/ATAなど数多くのインターフェースの強化が行われています.「Armadillo-9」の開発の前に一度MIPS に浮気したことは内緒です.

Armadillo-210/220/230/240

Armadillo-9 を出荷して「これだけの機能があれば,どのような機器開発にも柔軟に対応できる…」と思いたいところだったのですが,ビジネスはそう簡単ではありません.今度は「こんなに多くの機能はいらないから,もっと安くしてほしい」という要望が絶えません.

組み込み機器に求められる要素は処理能力,機能,価格,大きさ,消費電力,信頼性,長期供給性などさまざまです.必要なときに,必要なモノを,必要な数だけ作ることができれば一番良いのですが,その都度,求められる仕様に合わせてモノを作っていたのでは,時間も費用もかかりすぎます.

Armadillo-9 の汎用性を持たせたまま,このようなニーズに応えるために「Armadillo-200シリーズ」が開発されました.コンセプトは次のとおりです.

  • 機能を絞る代わりに複数の低価格な製品を提供
  • Armadillo-9とソフトウェアの互換性を持たせる
  • 可能な限り小さく作り,機器への組み込みを容易にする

Armadillo-200 シリーズにはArmadillo-9 と同じ系統のCirrusLogicのEP9307系を採用しました.いくつかのインターフェースの有無が異なる以外はまったく同じ機能持つSoC として使用可能で,高い互換性を維持できます(表4,写真4).

●写真4 ARM9 系のArmadillo(左からArmadillo-9,-240,-210)

●表4 Armadillo-200 シリーズの特徴
製品名特徴
Armadillo-210 Armadillo-J と同一形状ながらも高性能化
Armadillo-220 LAN,USB,シリアルで汎用的な組み込み用途に絞る
Armadillo-230 LAN が2 つ,シリアルでネットワークアプライアンスに機能を絞る
Armadillo-240 LAN,USB,VGA で表示することに機能を絞る
Armadillo-300

Armadillo-200 シリーズによって,ARM9 クラスの製品は完結するはずだったのですが,Armadilloシリーズの大きな悩みとして存在するのが無線LANへの対応です.PCの世界ではあたりまえの機能ですし,市販の無線ルータやアクセスポイントも多数存在するのですが,いざ自社の製品に組み込むことになったら大変なものです.

PCやコンシューマ製品であれば,短期的に製品供給していれば良いのかもしれませんが,産業用のボードコンピュータは長期供給を要求されてしまいます.しかも現時点において無線LANを搭載するためには,PCIバスを経由することが一番接続しやすいのですが,過去のArmadillo シリーズはPCI バスを持っていなかったので,無線LAN を搭載することは容易ではありませんでした.

ここで再びDigi International社の登場ですが,同社のNS9750(ARM9)はPCIホストの機能を持っており,またサイレックステクノロジー社から無線LANモジュールの供給を受け,3社共同で無線LANに対応した「Armadillo-300」が開発されました.

Armadillo-500

ARM7,ARM9 とくれば,その後継であるARM11に注目が集まるのは必然の流れです.ARM11のSoCとして米Freescale社(米Motorola社の半導体部門が分社化)のi.MX31Lを選択しました.

i.MX31Lは同社のi.MXシリーズの最上位です.i.MXシリーズとはDragonball MX1(ARM920T, 200MHz)から始まっており,かつてのPDAの代名詞「Palm」に採用されていたDragonballシリーズ(68K CPUコア)の後継という位置付けです.もともと,携帯端末に使う前提で設計されているので,低消費電力ながらも豊富な周辺回路が搭載されており,携帯用途でない分野でも幅広く使うことができます.

ARM9世代のArmadilloはArmadillo-9を中心に多くの用途に応えるべく,複数の製品バリエーションを用意しました.そして,そのバリエーションの中から要求仕様に近い製品を選んでいただくコンセプトです.しかしそれでは,要求仕様に近いものがないことも多々あり,結局開発コストをかけてゼロから作り直すというオチも多々あります.そこでARM11世代の「Armadillo-500」(写真5,6)では,今までと違うコンセプトの製品としました.

●写真5 Armadillo-500 のCPU モジュール

●写真6 Armadillo-500 の合体イメージ

  • 必ず組み込む部分(CPU,メモリ)をモジュール化し,再利用性を高くすること
  • 拡張ボードの設計ルールを容易にし,低コスト/短期間で開発できるようにすること
  • 高い処理能力と低い消費電力を両立することにより,適用範囲を広げること

実はi.MX31L の部品パッケージは携帯機器向けということもあり,かなり高度で高密度な基板を設計しなくてはいけません.モジュール化というアプローチをとることによって,この高度で高密度な基板の部分を最小に抑えることができ.モジュール以外の拡張基板は比較的容易なルールで設計することができます.

その結果,拡張基板の設計は容易になり,ゼロからすべての開発をするよりも開発期間を短くできます.また工数だけでなく単価の面でもコスト削減でき,設計リスクのある高度なモジュール部分は再利用するので,安定した品質を得ることができます.

組み込み機器は,ユーザの要求仕様に合うモノを作るために,ハードをゼロから仕様に合わせて作ることが必要です.しかしゼロから開発をしていては,これからの多品種少量生産が求められる「モノ作り」の社会には合いません.Armadillo-500は,機能のモジュール化を進めることによって,必要なモノを短期間に作ることを目的とした組み込み機器のプラットフォームなのです.

Armadillo-500 を活用した組み込み機器

Armadillo-500 でできる組み込み機器の例

Armadillo-500 はCPUモジュールと拡張ボードの組み合わせで1つの組み込み機器を開発することができます(図3).開発セットで使用されている開発用ベースボードも,拡張ボードの1つで,まさに開発者が使用することを前提としており,i.MX31Lの持つ機能のうち,可能な限り多くの機能を使用できるように作られています.

●図3 Armadillo-500 をベースとした組み込み機器開発

では,このArmadillo-500を利用して,どのような組み込み機器を実現できるのか,いくつか例を挙げてみます.Armadilloの採用実績としては計測器や制御器が多いのですが,ここではもっと身近なコンシューマ機器を紹介します.

●例1 : e-POP 端末

e-POP端末(図4)とは一般的に使われている言葉ではないようなのですが,最近コンビニやスーパーなどで見かける店頭プロモーション用の表示端末です.

SDメモリやコンパクトフラッシュなどのストレージに,プロモーション用の静止画や動画を入れておき,CPUでデコードをしてLCDに出力します.i.MX31Lは東芝社のワンセグGigabeatにも採用されておりH.264の動画再生や,任天堂のゲーム機で実績のある仏ActImagine社のMobiclipを動かすことができます.圧縮された動画であれば,W-SIM などの通信インフラを利用することにより,LAN がない環境でもデータを更新できます.

●図4 e-POP 端末のハード構成図



●例2 :ドライブレコーダ

自動車事故が起こった際に,衝撃や急ブレーキなどを関知して,自動的にその事故の前後を録画/記録する装置です(図5).CPUモジュールに,CMOSカメラを接続し,取り込んだ画像をSDメモリに保存します.衝撃や急ブレーキを検出するために3軸センサを接続して,常時監視をするようなソフトウェアを作成します.

●図5 ドライブレコーダのハード構成図



i.MX31LにはMPEG4のエンコーダの機能が搭載されており,カメラからの入力をリアルタイムエンコードできます.システム全体が低消費電力で構成できるため,事故で電源供給されない状況でも,バッテリ駆動させることが容易です.

●例3 :ハードディスクオーディオ

最近,携帯型オーディオプレーヤだけでなく,据え置き型のオーディオにもハードディスクが搭載されているものが増えてきました.Armadillo-500の高い性能であれば十分に同じような機器を開発することができます(図6).CPUモジュールにはオーディオインターフェースが用意されており,オーディオ用のA/D,D/A コンバータを接続することができます.ATA のインターフェースにハードディスクやCDドライブを接続し,CDからのリッピング,データ交換用や携帯機器との連動のためにUSBを出しておくと便利かもしれません.

●図6 ハードディスクオーディオのハード構成図



■参考文献

1.『TECH I vol.18 ARMプロセッサ入門』/CQ出版社

注1) Psion series5 は,CPU クロック18.4MHz,8MB のRAM を搭載しており,フタを開けるとキーボードが飛び出してくる斬新なスタイルが特徴的でした.ソフトウェアの面でも操作性の良いGUI の「EPOC」というOS が搭載されており,このEPOC が今の携帯電話でも多く使われている「Symbian OS」に発展しています.
Part 2